鋭い当たりの前には、すばしっこいはずの犬もなすすべがなかった。午前中のフリー打撃。田中幸の引っ張った当たりが左翼ファウルゾーンの芝生席で横たわっていた雑種の野良犬を襲った。直撃個所は頭部付近。ピクリとも動かない様子に、約30人のファンがすぐに周りを取り囲んだ。
“被害者”は茶色の柴犬で体長は約40センチ。百戦錬磨の大ベテランもこの非常事態に「大丈夫だった? 動いてた?」と報道陣を逆取材。何かとハプニング続きの今キャンプだけに、にわかに不穏なムードが高まった。
しかし、ここからの対処が迅速だった。すぐにひとりの女性ファンが野良犬を抱え上げると、球団側も鳥居広報グループSDが近くの動物病院まで同行。この後、名護市の観光課職員も駆けつけて、犬の容体を見守った。
全身にエックス線検査を行った結果、骨には異常なし。止血などの治療も施し、午後には意識も取り戻した。同職員は「最初は脳しんとうだったようです。2、3日、安静にさせれば大丈夫でしょう」と説明。退院後は、里親探しに乗り出す予定だ。関係者を通じて軽傷を伝え聞いた田中幸も「良かったですね。ほっとしてます」。ファン、球団、そして地域が“三位一体”となっての救出劇だった。